キャッチ4案
1)
ミスティックリバー、
人生に影響する映画だね
2)
ミスティックリバーDVD
こういうのを、一生モノという
3)
ミスティックリバー、
やられた、これぞ「物語り」
4)
“ミスティックリバー”を、
3129円で所有できるなんて
吸い込まれるように観て
気づくと終わっていましたね
「ぜったい、観ろ。とにかく、観ろ」
ミスティック・リバーをまだ観ていない、友人に勧めるとすれば、僕はそう言いますね。 「君が観たあとで、この映画について語り合おう」って。
うらぶれた路上で、クリケットのまねごとをする3人の少年、というシーンで始まるじゃないですか。なんでもないんだけど、町が暗いせいか、少年たちが明るくないせいか、何か起こりそうなかんじ。いきなりの緊張感で、目が離せなくなりますよね。
少年のひとりが、男に連れ去られ、一転、画面がモノクロームになって、同じ路上を、沈痛な表情でティム・ロビンスが歩いている。ワンカットで、少年たちの時間が遡ったことを語ってしまうんですね。
家で観てたんですけどね、うちの奥さんも家事をやめて、隣に座って観ちゃって。彼女、少しでも詰まらないと飽きちゃうタイプなんですけど。ふたりで黙って、吸い込まれるように観て、気づくと終わってましたね。 |
138分でしたっけ、あっという間でした。
なんなんだろう、この吸引力は? と思って、どんな演出しているのだろうと、チェックしたんですけど。
変わった視点から撮ってるとか、凝った演出はとかは無く、普通で。ミステリーで、謎はあるんだけど、不自然な伏線や、ショッキングなシーンが一切無くて、それでいてカットの繋ぎに緊張感があって、気を逸らせる暇を与えないっていう。
演出の、ここがすごいっていうんじゃないんですよね。クリント・イーストウッドの「手」は見えないんだけれど、空間の全てを支配しているのだろうなと。
それに配役、奥さんも(キャストたちの演技が)うますぎて笑っちゃう、と言ってましたけど。一回観ちゃえば、これ以外の配役、考えられませんよね。
主演のショーン・ペン。アウトローで、愛情があって、凶気を感じさせる。こんな役者、いないでしょ、この年代で。
うまい役者って、演技が過剰になって、クサくなりがちなんだけど、彼はそうじゃないんですね。一歩引いて、自分を客観的に観ているような演技で、映画に不要な色を付けないっていうか。
ティム・ロビンス、僕、好きなんだけど、こういう、うらぶれ、内側に狂気を抱えた中年男を演ると独壇場で、演技していることすら感じさせませんよね。
この映画、監督、俳優双方の経験者が
じつは5人も参加してるんですね
小説の評論って、批評家ではなく、小説家が書いた方が真に迫るんですよ。作品を越えて、書き手になって考えられますから。
この映画にも同じことが言えて、監督のイーストウッドはもちろん、主要キャストの4人、ショーン・ペン、ティム・ロビンス、ケヴィン・ベーコン、ローレンス・フィッシュバーンに、俳優と監督両方の経験があるでしょ。つまり、5人とも、監督語、俳優語を使えるってことですよ。 |
(C) 日本経済新聞社
共通語を持たない、専業監督と専業俳優のコミュニケーションは抽象的にならざるを得ませんが、彼ら5人なら、あうんの呼吸も通じ、かつ、すごく具体的な、技術的に突っ込んだ話もできて、密度の濃いコミュニケーションが取れたと思うんですよね。それが、ミスティック・リバーがここまでの完成度を持ち得た理由のひとつではないでしょうか。
僕はもともと、演劇の演出家か映画監督志望で、中三、高一、高二の三年間に、劇作を三本書き、実際に上演したんですよ。上演には至りませんでしたが、8ミリ映画も撮りました。映画づくりは他者と関わざるをえず、対人関係がしんどそうで(笑)、小説家になりましたが、映画は今も、創作のひとつの素材となっています。 |