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カリブ、ボネア島の
エコシステムについて

ボネアは、死の島である。
カリブ海のディープサウス、南米大陸アルぜンチンの海岸線から50マイル沖に浮かび、アルパ、キュラソとともにダッチカリビアン(オラン夕領アンティール) 3島を形成している。

ボネアは死の島である。
と言っても核実験の場となったとかそういうわけではない。自然が残り、スノーボーダーよりはるかに(? )経済的偏差値が高いと恩われるダイバーが「ボネアて潜るのが夢」と口を揃えるほど、海が美しく、 スノッブなリゾートである。ホテルがべらぼうに高いわけでもないが、不便で(日本から行くとニューヨーク泊で2 日がかりだ)、人が少なく、資本主義的価値観に哉されていない。
島の端に、世田谷区より広い塩田がある。
塩田といえ、ベルトコンベアと塩の築山があるくらいで、ほぼ自然のままである。
強烈な太陽光と浅いラグーンによって、ここは太古から自然の塩田になっていたのだろう。
太陽光は、閃光といった方がいい。
塩だから辺りは純白で(塩になる前の、濃縮された海水はピンク色だ)、空は可視光線以上かと思われるほど明るく、青を越して白く見える。
ピーチも白いが、砂ではなく、枝状のサンゴの死骸で、アルファベットに似たものを探す遊びがある。
遺跡がある。
かつて塩田で使役した奴隷たちの家だ。家と言っても小さな箱、屈まないと入れない入り口、中腰でないと立てない2帖ほどの箱、そこに数人詰め込まれたという。奴隷たちを殺さないためには日陰が必要だった。

南の島、というと榔子とかマンゴとか繁殖とか、ようするに「生」のイメージがあるが、ここではそうではない。目をつぶっても明るい、頭をハンマーでぐわんぐわんと殴られるような閃光にさらされ、影はなく、音はせず、風はなく、乾ききって水もない。
植物には過酷なのだろう、サボテン系がぱらぱら群生する原野、山の樹も低い。
隆起サンゴの島だから、いちばんありふれているのはサンゴの死骸で、それはセメントに混ぜられて建材になる。
規制lで3階(4階?)以上は建てられないが、計i函もリズムもなく、原野をブルドーザーで適当に聞き、適当に建て、造成途中て放ったらかしになっている現場もあるが不思議に荒れた印象はない。
サンゴのせいだと思う。
人間の眼はわりあいスルドイものだから、粉砕されたサンゴが混ぜられた壁の質感や、その風化の様子に自然を感じて、源自然と馴染んでいるように見えるのだろう。この島は、建築も道路もビーチも土壌も、すべて生きものの死がいでできている。

島にはやたらにヤギがいる。
野生ではなく放牧だが、自活できる程度に成長したらカラダに印をつけて農協に登録し、あとは放ったらかし、必要になったら捕まえるたけだから半野生とも言える。
ヤギたちは自然のなかで恋をして子をつくり、生を謳歌しているように見える。しかし突然不幸が見舞う。死に直結する不幸だ。
クルマを降りて観察すると、かれらが人を恐れているのがわかる。ひょっとしたら来たるべき運命を知っているのではないか。
島の北に、ラックベイt いう、水滴型の美しい入江がある。マングローブが自生し、砂州がうねりを吸収して、入江はいつも波静かだ。
奥にのどちんこのような岬があり、その先に廃墟がある。誰かが、ベイの一等地であるそこにホテルを建てようとしたのだが、地盤が隆起サンゴのため石灰分が多く、地下に鍾乳洞があり、それは埋めるにはあまりにも巨大だったため、建築を断念するしかなかった。鉄筋コンクリートの梁と柱が残るだけだが、陽に灼かれて、いまとなっては立ち枯れた巨木のようにベイの風景にi容け込んでいる。
ボネアには死のイメージがある。
それは悪いものではない。