………………いままさに、世界同時多発レボリューション勃発中………………

HW12L_edge.pdf

LEADING EDGE
いままさに、世界同時多発
レボリューション勃発中

コメント=荒木康行
www.feather-factory.com
screenplay by words-by-toko.com

■"Bongka" performed Elton "Taty" Frans.
"Flatten" performed by Boujmaa.
前者は、フォワード→フラカの連続ワザ、後者はプッシュループとテーブルトップ複合ワザである。いや、連続、複合というのは当を得ていない。"Bongka" 、"Flatten" という、流れるような、ひとつの動きである。
"Bongka" は、Tatyの兄のTonkyがクリエイトしたのかも知れない。2009年夏、カナリーツアーで本番披露した。(ちなみに、2010年同ツアーではFLAKA to SHAKAを。これでもかこれでもかと毎年毎年たいしたもんだ)
横スライド系の技はスピードが落ちにくいので、次の動き、この例でいえばフラカに流れるように入り、メイクしやすいが、フォワードのように、板が縦よりに回る技からでは容易ではない。着水時、ノーズやテイルが海面に刺さりがちで、失速するからだ。
シークエンスの、右から6コマ目。Tatyは失速を避けるため、フラットランディングしている。もちろん、モロにそうしてしまうと道具を壊したり体を壊したりしかねないから、絶妙な3Dアングルで着水、レイルでショックを和らげ、7コマ目に連続させている。
”Flatten" はBoujmaaのオリジナルだが、そのネーミングにはどんな意味が込められているのだろう。
注目すべきは、4コマ目までの、プッシュループ回転の速さと高さだ。それが可能にする、Boujmmaならではの柔軟さとバネを活かした、3コマ目の──トゥイークというかエアリアルイナバウワー(古いか)というか──「決め」、7コマ目のテーブルトップ、そして大きく、余裕のあるランディングへ。
この、"Flatten"、プッシュとテーブルトップを複合させるだけなら、他にもメイクする選手はいるかも知れない。が、彼のようには「決め」られないだろう。
Boujmmaは現在、フォワードループからバックループに入る(!)技などを開発しているようだ。

TatyとBoujimmaだけが卓越しているのではない。
2010年PWAウェイブチャンピオンのビクター、同フリースタイルチャンピオン、ゴリート、トンキー、キリ、ブラウジーニョ……。
かれら20代の、多数の才能が感じさせるのは、多様性(Diversity)と共時性(Synchronicity)だ。

アクション系ウインドサーフィンはかつて、乱暴にいってマウイのホキーパで進化してきた。そこにはつねにカリスマがいた。
マイク・ウォルツ、クレイグ・メイソンビル、ロビー・ナッシュ、マーク・アングロ、ジェイソン・ポラコウ……。
そこにはつねにわかりやすい目標があった。
もっとおおきな波に乗る。あのカリスマのように乗る。あのカリスマを越える。
明快なベクトル、その集中力はアクション系ウインドサーフィンを大きく進化させた。
そのさなか、90年代に入ると、南カリブの小島ボネールの、マングローブに囲まれた入り江、ラックベイに、トンキー&タティ兄弟を初めとする "New Kids" が集まり始めた。
ラックベイにはなにもなかった。
波も、安定した強い貿易風も、ロビー・ナッシュも、先入感も。
ただ、遠浅で、フラットで、自由なフィールドだけが広がっていた。
New Kidsたちは「アクションにはプレーニングする風が必要」とすら考えなかった。
ほとんど無風でも海に出て、"GECKO" や "NERO" をクリエイトした。
その精神性とパフォーマンスが、現在のフリースタイルへと進化したのである。
Boujmaaはモロッコのエッサウイラで育った。ラックベイと違ってタフコンディションだが、同様に「お手本」はいなかった。Boujmaaは先入感にとらわれず、奔放に、オリジナルな動きを自得していった。
ゴリートはベネズエラのエルジャケで。ヴィクターはスペインのアルメリアで……。
「虎の穴」はホキーパだけではなくなった。

多様性。そして共時性。
「101匹目の猿」──ある猿山のある猿が芋を海水で洗って食い始め、少しづつ真似する猿が増え、その数がある閾値に達したとき、群れ全部の猿が芋を洗い始め、さらに海峡の向こうの猿山の猿たちも……という逸話。著者のライアル・ワトソン自身が、科学的な話しではないとしているらしいが、それはいい。
かれら20代ウインドサーファーたちの劇的なパフォーマンスレベルの高まり。かれらのあいだで、そのようなシンクロニシティ、世界同時多発レボリューションが、いままさに勃発しているように思える。

■"Bongka" performed Elton "Taty" Frans.
(C) John Carter
■"Flatten" performed by Boujmaa.
(C) Jerome Houyvet