……………… あそぶヒト "HUMANATURE" 1998 ………………

切実に
あそぶ。

虎は、喰うためにしか殺さない、
というのは嘘だ。
虎は、小動物をいたぶって、あそぶ。
あそばないと、やっていけない。

「すべては無常だ」
いつだったか、オウムのビラを見て、
そうだ、と納得してしまった。
(連中のではなく、仏教の基本教理だが)
そうだ、すべては、はかないのだ。
たしかなものなんて、なにもない。
愛しい女房子供がいてもはなかい。
金があってももむなしい。
いや、充たされていればいるほど、
むなしいのだ。
充たされてしまうと退屈する。
退屈すると、そのむなしさに、
気づいてしまう。
むなしさに、向きあってしまう。
それを忘れていたいから、
酒を飲み、仕事をし、無駄遣いをし、
あそぶ。
むなしさを、どうにかして、
埋めないと、やっていけない。
木漏れ陽をあびて背伸びするだけで、
やってゆけるヒトもいる。
海抜20メートルの波に乗らないと、
やってゆけないヒトもいる。
↓島の約半マイル沖合で割れる"JAWS"
ブレイクの衝撃波は、ギャラリーが立つ大地を震わせる
サーファーは、ブレイクから離れすぎると、それから
逃れるスピードが得られず、近づきすぎると呑まれてしまう
まさに "SURF OR DIE"       foto by Rick Leeks
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JAWS-03.jpgfoto by Erik Aeder + Rick Leeks

マウイ・ノースショアの、
"POWER SURFER" たち

■"POWER SURFER"とは、自分の力、つまりパドリングだけでは
テイクオフできない、human-scale をはるかに越えたサイズの波に
──ウインドサーフィンにおけるセイル(=風のパワー)や、トゥイン
サーフィンにおけるマリンジェット(フットストラップのついたサーフ
ボードを履き、牽引してもらう(=エンジンパワー)を利用して──
強引に乗ってしまう男たちをさす。

マウイ島北岸のJAWSは、現在、世界で最大の"SURFABLE"な波が
割れるポイントであり、パワーサーフィングもここでうまれた。とは
いえ、海抜20メートルクラスの波に、まともに乗れるパワーサーファーは
世界に20人ほどしかいない。
かれらはすこし変わっている。
少なくとも表面上はエキセントリックではないのだが、いつもどこか焦って
いるようなかんじがする。いつもらんらんとしているというか、ばくばくして
いるというか、ある種狭量だというか、ニンゲンの種類がちがうというか……。
かれらは、ノースショアを望むハイクの森に、スローでネイチャーな家くらいは
持っているが、サッカーやゴルフのトッププロのように大金持ちではない。
けれど、おおむね、美しいカラダと、時間に拘束されない生活を有している。
レアード・ハミルトンは、PEOPLE誌(だったっけ?)の抱かれたい男ナンバー
ワンに選ばれ、ラッシュ・ランドルやピーター・カブリナらは、ハリウッド映画
"IN GOD HANDS"に、スタントマンとしてではなく、パワーサーファーとして
のキャラクターそのまま出演している。
バジー•カーボックスは、ミラノコレクションやラルフローレンのモデルで
一年分の生活費を稼ぎ、あとはマウイで波を待って暮らしている。

若く健康でたくましいカラダ、美しいワイフ、気持ちのいい暮らし、
タイムリッチ……
それ以上、なにを求めればいいというのだ?
JAWSでの写真や映像が、多少の金銭的受益につながりえる
という側面もある。が、それは理由のごく一部だ。
命がけなので、割にあわない。
かれらは、足りないなにかを埋めるように、
JAWSのジャイアントウェイブに乗る。
まるで巡礼するように、切実に、あそぶ。