……………… 飯島夏樹レジェンダリー  2007 ………………

"Life 天国で君に逢えたら"は、
クライマックスではなく、始まり


■もう21年も前のことになる。
映画では「藤堂」として描かれた、故・石渡常原氏は沖縄で、琉球大在学中の飯島夏樹を発見し、ものになりそうなやつがいるから鍛えてやってくれ、と「中央」に紹介した。
中央とは、葉山に拠点を置くチームウインドサーファーである。チームには、新嶋光晴、岩橋厚、佐藤務(ウインドサーフィンが正式種目となった84ロス五輪日本代表)、斉藤リョーツ、森秀一、松永 みどりら錚々たるメンバーがいた。
彼らは、日本のプロウインドサーフィンの黎明期から、
そのパフォーマンスとビジネスモデルを構築してきた、文字通りのパイオニアだった。
彼らは夏樹をトレーニングし、スポンサーに紹介し、海外遠征に連れて行き、世に出した。
とりわけ新嶋氏は、寛子さんとのなれそめを知り、その結婚披露パーティの司会も務め、夏樹の、公私にわたる兄貴だった。
氏は現在48歳、材木座セブンシーズのオーナーであり、日本ウインドサーフィン界のリーダーの一人である。この夏、新嶋氏は、日本ウインドサーフィン界は、天国の夏樹から、おおきな贈り物をもらった。

8月25日に封切られた映画は、10月初旬時点で125万人を動員し、16.4億の興行収入をあげた。
8月29日には、ワイキキのサンセットオンザビーチでプレミア試写会が行われた。
このイベント、開催決定が遅れたため、充分な告知ができなかった。2日前に少数の告知ポスター、それとローカルFM局によるアナウンス程度だった。
加えて、通常は週末なのに、水曜の開催。
さらに、ハリウッド映画ではなく、初めての日本映画。
寛子さん、日本からかけつけた大沢たかお氏は、数十人しか集まらなかったらどうしようと、本気で心配したらしい。けれど、その黄昏、じつに6500もの人が殺到したのである。
そんな数字以上に、夏樹の映画には、なんというべきか、ヴァイブレーションがある。
一人で7回観た。
夫婦で観にゆき、20年ぶりに手をつないで帰った。
映画を観て、自殺をおもいとどまった。
関連ブログはそんな書き込みで埋まった。
「Life 天国で──」は、生き抜くことや、家族を愛することを、臆面もなくと形容していいほど、ストレートに描いた作品である。
そういう、ど真ん中の直球が、人々のこころの芯を打った、ということであろう。

そう、ウインドサーフィンである。
映画は、夏樹が望んだとおり、ウインドサーフィンをかっこよく──というかありのままに──描いた。
ロードショー以降、どこのウインドサーフィンスクールも受講者が激増した。
地方では前年比15倍とか、閉めていたスクールを、受講者の希望によって再開した例もある。
新嶋氏のセブンシーズも、9月は前年比200%だったという。
スクール受講者の定着率(かれらが道具を揃え、いっぱしのウインドサーファーになる率)は、残念ながら10-15%と低い。
が、それも改善されるかも知れない。
映画と、その各メディアでの露出、桑田佳祐の主題歌などによって、ウインドサーフィンが──新嶋氏の言葉を借りれば──世に「公認」されたからである。

新嶋氏はこれまで、さんざんウインドサーフィンを語ってきた。
「風にも、波にも乗れ、毎秒3メートルの微風でも、うまくなれば台風の海でも遊べる、オンリーワンの、究極のネイチャースポーツで……」
ウインドサーフィン? 見たことはあるけどねぇ、
ヨットの、サーフィンの亜流でしょ。
言葉は、届かなかった。

状況は変わった。
彼らはいまやこう応えるのだ。
知ってるよぉ、「あの」ウインドサーフィンでしょ、やりたいと思ってたんだ。
彼らはウインドサーフィンを理解している。
夏樹がその生涯をかけて綴った「物語り」とともに。
harry_002.jpgfoto by HARRY
前号の、このページにも書いた。
ウインドサーフィンは新たな局面に入った、と。
じつは、その胎動は、「映画」以前から始まっていた。
キッズスクーリングの盛況である。
日本風波アソシエーション主催の、ポケモン・キッズレッスンは定員60名で3回開催されたがいずれも満員。セブンシーズ主催のロッテマリン学校、同じく定員60名・4回開催だったが、キャンセル待ちもでる盛況だった。ビギナーだけではない。鎌倉ジュニアWSFチームは、小一から中三までの有望選手25名を擁している。
それは、彼らの親が、ウインドサーフィンを認め、勧めているということだ。
その親たちも子どもたちに負けていない。
80年代に20代でウインドしていた人が再開している。
さらに、新嶋氏が確実視しているのが、昨今のブームでロングボードサーフィンを始めたオヤジ層からの転向組だ。
サーフィンは狭いエリアで波を取り合う。これがビギナーには難しい。なに前乗りしてんだよ、と若いのに怒鳴られたり、50肩でパドルできないとかで、続かない。
買ったウエットを無駄にしたくないし、今回の映画で、そうだ、ウインド、となるわけである。
「ちょいワル」なら、天君効果で女の子にもモテるかも、と下心も手伝うかも知れない。
「そりゃアマいんじゃないの」と、夏樹は苦笑しているだろうけど。

"Life 天国で君に逢えたら" は、クライマックスではない。
始まりなのだ。