……………… 生活エリートたちの、ウインドサーフィン・エンゲル係数 2002 ………………

life-uragami.jpgfoto by TAKI
LinkIcon → download to read
HUMAN-008

浦上正樹さん(32歳B型)
富士通 購買本部調達戦略室

この男、富士通マンにして、
三浦レーシングシリーズ・ランキング首位
おまけに奥さま、ちょーかわいい。


■たとえばNTTドコモ、いまこの瞬間に、何十万、何百万の通話が成されているのだろう。
信号は、携帯と携帯をダイレクトにつないでいるのではない。大阪から鹿児島に電話したとしても、信号はいったん、神奈川にあるiモードの基地局に送られる。
有線部分は大容量の光ファイバーが使われているが、なにせトラフィックが膨大なので、信号は基地局で圧縮され、交通整理され、解凍され、それぞれの携帯に送られる。
富士通は、一般にはキムタクが宣伝しているFMVシリーズと、@nifty くらいしか馴染みがないが、通信関連では世界的なトップ企業で、全米でのシェアは2位、iモード関連システムも手がけている。
iモード基地局に設置される富士通製の圧縮解凍交通整理装置は、ワンユニットがロッカーくらいの大きさで約2000万円(社外秘なので筆者推定)。
これがたぶん千の単位で並び、システムやメンテナンス込みの受注で、10年20年単位で稼働するから、ビッグビジネスといっていい。
1本の光ファイバーに流せる信号は、かつては限られていたが、現在は光信号の性質を変えるなどの技術で、同時に複数波を、多量に流せる。——専門的なお話しをいろいろ伺ったのが、要はそういうことであろう。
それらハードウェアすべてを富士通が作っているわけではなく、たとえば光信号を発射するレーザーダイオードは他社から買う必要がある。
富士通川崎工場の購買本部・調達戦略室に所属する浦上氏の仕事は、たとえば、一個100万円ほどするそれを、価格や性能はもちろん、生産計画、調達性など総合的に判断して、仕入れることである。
たとえばLSI。LSIとひとくちにいっても、記憶専用、エンコード専用、汎用といろいろあるから、バイヤーとしても高度な専門知識が必要だ。
通信に加えIP(インターネット・プロトコル)関連の仕事も多い。
現在は次世代携帯電話サービスFOMAへの本格移行にむけハードな時期を迎えている。
日本の基幹を担うというか最後の砦を死守するというか、核心的で重要な仕事であろう。

69年、富山県に生まれた。
細身だった体を鍛えるため陸上部に入り、高校総体でやり投げ55m、県で2位の成績を残した。
大学には進まず富士通入社。
富士通は社員を育てようとする姿勢が強く、社内大学(のような教育制度)があり、浦上氏も、入社後3年間、勤務を終えて3時間、数学や英語、プログラミングなど専門的なことも学んだ。
卒業したころ、社の、ウインドサーファーの先輩が利根大堰に誘ってくれた。
当時は栃木工場勤務で、利根大堰が最寄りのゲレンデだった。
夏だった。
そういえばながい間、スポーツから遠ざかっていた。
ウインドサーフィンは経験がなかったが、その日、ふらふらしながらも進んだ。
それから週末になると利根大堰に通うようになり、しばらくは先輩の道具を借りていたが自前で揃えた。
川崎に転勤になってからは稲毛に。
ローカスで杉原祐史プロと知り合い、そんなに一生懸命ウインドしているのなら三浦でレースすればいいと勧められ、7、8年前からは三浦。現在は三浦レーシングクラブに所属している。
ウインドサーフィン歴は12年。
こう書くと、単にウインドサーフィンが趣味の大手企業勤め人、なのだが、平凡ではないのは、氏が、三浦レーシングシリーズ・スペシャルクラス(プロアマオープン)、現在4戦消化した時点でのランキングが1位であることだ。
このシリーズ、山田昭彦などトッププロは運営にまわって参加しないとはいえ、強豪がひしめく。
昨年夏の十三湖は12位。並のプロより速い。
「密度の濃い練習をしたいから」
それが三浦レーシングクラブに参加した理由だ。
同クラブのプロたちは浦上氏を評し、
土日しか練習できないのに、強風で速い。
しかし微風も速い。
海にいるときはだらだらせず、いつもきびきびしている。土日しか練習できないからとか言い訳を一切しない。など、ウインドサーファーとして、ニンゲンとして、明らかに尊敬を集めているようである。
フルタイムの、多忙な、会社勤めをしながら、三浦のショップ・シャークスのトップライダーで、ガストラセイルを支給され、山田プロの口添えもあり、DROPSのボードもライダー価格でゲットしている。

そして、皆ながうらやむ奥様、かおりさん。
ローカスのウインドサーフィン&バーベキューツアーで富津に行き、出会った。
若くて美人なので、競争率は高かった(と思われる)が、たまたまレンアイ的傷心状態で、そこにつけこんだ、言葉が悪いな、とりいった、違う、くいこんだ?
浦上氏、パッと見は硬派で寡黙で体育会系だが、決めるときは決めるものである。
一緒に三浦に通うようになり、一年後に結婚。
かおりさんが、三浦の皆なに人気なのは、その飾らない気さくさゆえという。
飾らない気さくさ?
取材者は、ステレオタイプな形容を使わないで良いよう、具体的なエピソードを拾わねばならない。
——その気さくさというのはたとえば、町ですごくかわいい赤ちゃんがいたとして、まー可愛い! 抱かせてといって、その見知らぬ母親に赤ちゃんを預けさせてしまうようなことですか、うちのおかんがよくやってひやひやするんですけど、と訊くと、えーまーそんなかんじですねと浦上さん。
横浜市青葉区の公団スイートホームに住み、奥様は医療事務のアルバイト。
週末は一緒に三浦に行き、バスケットに詰めたおしゃれなクラブハウスサンドでランチ、山田プロや国枝プロにも分けてあげたりして、ご主人はトッププロとバトル、海では奥様にはあまりかまわず、彼女はお友だちと、きゃあジャイブできたとはしゃぐ、絵に描いたような幸福なウインドサーフィン夫婦である。
(一部筆者創作)

週末の練習を集中してやり、レースに遠征し、プロ並みの成績を残す。それほど、浦上氏はウインドサーフィンが好きだ。
マウイにも行く。マウイ・レースシリーズに参戦したことがあるが、さすがにフィル・マクゲインやケビンらの相手にはならず、ぼこぼこにシメられたらしい。しかし、たとえ、年末ジャンボが当たったとしても、仕事を辞めてマウイに引っ越しウインドサーフィン三昧したいとか、そういう風には思わないという。

仕事を終えると、海に行きたくなる。
海から上がると、さあ仕事するぞとやる気が出る。
仕事と海とメリハリがつき、生活が充実する。
それがいい。
ウインドだけをやっても、きっとダレてしまって楽しくなくなると思う。
道具のサポートを受けていることもあって、お金はそうかからない。たまのレース遠征は、目的のある、濃い旅になる。海とウインドのおかげで、精神的肉体的な健康状態は、いつも万全で意欲的で、仕事も精力的にこなせる。
冬は菊川にウェイブをやりにも行くが、レースの方が楽しい。波が無くても、風が弱くてもできるし、具体的で、達成感や悔しさや、良きにつけ悪しきにつけ結果がはっきりしている。仕事に似ている部分もある。

富士通といえ、他のビッグネームと同じく、リストラが報道されることもある。
しかし、若手、中堅社員の士気は高い。
広報的に言えば「構造改革を進め、将来に向けた新技術・新事業展開のための布石を打っている時期」であり、汗を掻き、耐えなければならない。
浦上氏の仕事も、正念場なのだろう。
終電帰宅になることもあるが、早めに仕事が終わると、マシンが充実した社内のジムでトレーニングをする。
ウインドサーフィンもまだまだだ。山田プロに負けないくらい速くなりたい。

ウインドサーフィンが仕事を高める。
仕事がウインドサーフィンを濃くする。
本連載のテーマは、浦上氏の生活そのものである。
にっぽんの将来は明るい。
浦上氏のような男ばかりなら。