……………… さあ、SUPで海に出よう。歩くように、バイクで遠出するように ………………

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SUP は、海で散歩するための道具だ。
海面に「立って」歩く。
海面に立ち、ひろびろとした視界を得、
深呼吸するように上下する海面に身を
任せることは、刹那的にしか立てない
サーファーにとってさえ新鮮だ
いわんや、生まれて初めて海に出た人に
とっては……。
パドルという推進力があるという意味では、
バイクに似ている。100km歩く
のは大変だが、バイクで100km走る
のはそうでもなく、歩くより快感があり、
道具を操る楽しさもくわわる。







TOKO付記:
■ウインドサーフィン専門誌Hi-WIND には84年からかかわり、
スポーツの成長とともに誌面をつくってきた。スノーボードの
黎明期、日本初の専門誌 "SNOW STYLE" の創刊スタッフに
加わった。Stand Up Paddle も新しいスポーツ。この連載は、
雑誌上ではおそらく日本初と思われる。



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SUP is Primitive
さあ、スタンダップで海に出よう。
歩くように。バイクで遠出するように

■それはある種、スポーツというより、もっとシンプルな、ウォーキングとか、ジョギングに近い。
もっともハードルの低いウォータースポーツ、ともいえる。
パドルという推進力があるという意味では、バイクに似ている。100km歩くのは大変だが、
バイクで100km走るのは、そうでもなく、それを操る楽しさもくわわる。
海に限らず、川でも、湖でもできる。
雪山で、圧雪車が踏んだばかりの、グルーミングされた斜面をカーヴィングするのはイージーで気持ちいいように、風がなく、海面が鏡のようなら最高だ。
さあ、スタンダップで海に出よう。歩くように。バイクで遠出するように。
SUP is Physical
スタンダップは、有酸素かつ
持続可能な運動で、メタボに効く

■LSD。合成麻薬じゃないよ。Long Slow Distance、ゆっくり、長時間、距離を走ること。
スタンダップはパドリングが必要で、しかし自分のペースでできるから、有酸素運動、かつLSD可能で、カラダを引き締めるには最適だ。
ウインドサーフィンの場合、ウェイブライディングは別として、ハーネスをうまく使えるようになると、
そう力を使わず、カラダもあまり動かさない。
スタンダップの場合、パドリングで、上腕、肩、胸の筋肉が鍛えられることはもちろん、
バランスボールに乗りっぱなしでパドリングするようなものだから、下半身から体幹部、足底筋
から腹筋背筋、大腰筋や腸腰筋などインナーマッスルが鍛えられる。ロビーさんなんて45歳だよ、あのカラダで、ま、鍛えかたが違うけど。アラフォーの一般人でも、スタンダップ始めて3月も経つと、メタボだった腹がフラットになって見違える。
SUP is Silent
「海面に立つ」ことの新鮮さ。
海に抱かれて、海とともに動くやすらぎ

■ウインドサーファーでさえ、スタンダップで海に「立ち」、深呼吸するように上下する
海面に身を任せることは新鮮で、なんだかとても安心するものだ。いわんやサーファーや、
生まれて初めて海に出た人にとっては……。
ロビーさん、立場上(笑)、ビッグウェイブに乗ったりしているけれど、スタンダップのコアは、
波乗りではなくて、ただのクルージングにあるのだと思う。
ロビーさんもいっている。
「ぼくは30年間、ウインドサーフィンやカイトを、プロとして続けてき、performance することが
使命だった。それがいまは、スタンダップで、見向きもしなかった、波も風もない海にでて、
パドルアウトしている。まったく違う次元で、海に出ている……」

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散歩するように海にでる。
それは未知の次元、
ビギナーにとっても、
ぼくにとっても



■「3年前まで、ぼくはスタンダップを無視していた。
無視というか、関心がなかった」
ロビーさんはつづける。
「ぼくだけじゃない、ハードコアなウインドサーファーやサーファー、カイトサーファー、みなそうだった」
2年前から、スタンダップが、目に見えて増え始めた。
ウォーターマンではなく、一般の──それも、ウォータースポーツをやったことがない──人がたくさん、スタンダップによって、海に出るようになっていた。
かれらは、ウインドサーフィンやサーフィンに憧れていた。けれど、Ho'okipa やJawsのビッグウェイブでリップしたり、50フィートもジャンプしてループしたりするのを見てしまえば、おれにはとても、とあきらめてしまった……。
スタンダップには、そういう精神的ハードルがほとんどなかった。
充分な浮力を持つボードに立って、それが難しければヒザ立ちで、パドルで漕ぐだけである。
サーフィンにおけるテイクオフとか、ウインドのジャイブとか、そういうハードルもない。







ぼく(菱倉)は、逗子でスタンダップを「布教」していて、すでに20名くらいの仲間がいる。
40代が中心で、公務員や八百屋さんの旦那や、一般社会人、逗子で生まれ、そこで育ち、30年40年と暮らしながら、夏、海の家でビールを飲むくらいで、それまで一度も海に出たことがない方がほとんどだ。
スタンダップを始め、じぶんの力で、散歩するように、自転車で出かけるように、海に出る。
それはかれらにとって、目が洗われるような体験だ。仲間で、逗子海岸から大崎まで、1マイルほどの「ツーリング」に出かけた。
サーフィンと違って、板に立ってパドルアウトするから視界が広い。
スタンダップ日和は凪だから、海面が荒れてなくて、海底もよく見える。冬は水が澄んでいる。
「へえ、逗子の海ってこんなにきれいなんですねぇ」
「あっ、ワカメが揺れてるっ!」
「おっ、ここまで出ると富士山が見えるんだ」
と、子供のようなはしゃぎよう。そして、生まれ育った逗子の街と山を、海から眺め……。
ある日、ぼくにも "something" が
見つけられるかと思って、
スタンダップで海に出てみた。
風も波もない、平凡な海だった。
しかしそれは退屈ではなかった


トップのプロウインドサーファーであり続けるロビーさんは、絶えず競争力を保ち続けねばならない。
かれのような立場じゃなくても、ウインドサーフィンには、上達しないと楽しめないという側面がある。
成果主義で、フォワードよりもバック、もっとバーチカルに、もっと大きな波に……と追われる。
サーフィンやカイトも同じだろう。
でも、スタンダップは違う。上達するのもいいが、上達しなけりゃというプレッシャーが少ない。
散歩は、別に上達しなくても楽しめるように。
週に2回海に出て、波乗りの練習はせず、沖の小さなうねりで遊ぶ程度で、10年続けてもいいのだ。
ロビーさんだってそうだ。
それまでは見向きもしなかった、フラットで、無風で、パフォーマンスできない海に──その方がむしろ楽しくもある──嬉々として出る自分がいる。
「違う次元で、海に出る」
体幹部や、鍛えにくいインナーマッスルを鍛えられるというメリットもある。プロのウォーターマンたちもぞくぞくスタンダップを始めている。

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01……as ENGINE
人力を、その数倍の推進力にトランスレーション

■スタンダップのパドルはいくつもの機能をもっている。もちろん推進力。パドリングがうまくなると、手のそれの数倍の推進力が得られるのではないか。
しかし、スタンダップは風に弱く、ビギナーなら4m/sの向かい風で前進できなくなる。(そういうときは座って漕ぐ)
パドリングに長ければ8m/s でも前進できる。
逆に言えば追い風は最高で、バイクから原付に乗り換えたよう。Naish も、ダウンウインド・ロングディスタンスレースの冠スポンサーを務めている。
02……as BALANCER
なにか手に持つものがあったほうが落ち着かない?

■話しが逸れたが、パドルの第1の機能は推進、第2のそれはバランサーである。
ウインドサーファーはブームを持ってボードに立つことに慣れているので、スタンダップに乗り換えてもすぐ立て、落ちない。さらに、パドルを、綱渡りのバランサーのように使える。
03……as STOCK
よちよち歩きでも安心、魔法の杖

■第3は、第2のそれとかぶるのだが、ストックとしての機能だ。スキーのストックのような、子供自転車の補助輪のような。
たとえば、バランスを崩し、落ちそうになったとき、パドルで海面を叩いてリカバリーする。
ロビーさんレベルになると、波に乗っているとき、フェイスにパドルを接触、スラッシュさせたりするが、これはリカバリーではなく、「サイドフィン的なコントロール」という。
final result
たとえば、波に乗るのもソォイージー

■それら機能のシナジーによって、スタンダップは、たとえば、かなりイージーに波に乗れる。
初中級サーファーが苦しむことのひとつに、テイクオフしてボード上に立ち、スタンスを決めるまでの
時間的マージンが少ないことがある。
ショートボードなら瞬時だし、ロングボードでもほとんど余裕がない。その半端なスタンスで乗るから、落ちたり、なんちゃってライディングしかできないわけだ。
スタンダップは、その浮力と、パドルの推進力によって、レギュラーサーフィンよりずっと奥、うねりの状態からでもテイクオフでき、時間的マージンをもらえるから、じっくりスタンスを決められる。
さらに、パドルは、波に乗っているあいだ中、バランサーとして、ストックとして働く。

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deep roots
パドリングは、海を敬うおこない

■ハワイでは、伝統的に、パドリングという行為が尊重されてきた。パドリングで、じぶんひとりの力で海に出るということは、海に敬意を払うことだった。
スタンダップは、ワイキキで観光客の波乗り姿をウォーターショットで撮ることを仕事にしていたサーファーが、ボードに立って撮影するため、大きめのロングボードと、ありあわせのパドルを使ったことに始まるとされ、それを真似る人がひとり、ふたりと増えてゆき、Stand Up Paddle Boarding と呼ばれるようになった。
これがOahu Roots。
マウイに渡ったSUP は急激な進化を遂げる。
ウインドの板のR&D を続けてきたデザイナー、コンストラクションやプロダクション化のノウハウがあった。
Naish、Bill Foote、Jimmy Louis……、幾人もがスタンダップの板を手がけるようになった。Maui Rootsである。


design basic
主流はプロダクション。想像以上にワイドで厚い

■スタンダップの板はプロダクションが主流で、その素材とコンストラクションは、スタイロをエアレックスで巻くなど、ウインドのそれとほとんど同じである。
だから充分に剛くて軽い。
Naish の10'6" で10.5kg。
クラークフォームで造ったら、20kgを越えるだろう。
シェイプは、一見ロングボードと変わらないという印象をもたれるかも知れないが、かなり違う。幅は最小でも26インチ、ロングボードで厚さ3インチを越えるものはないが、スタンダップは4インチを越える。
design vision
"FREE RIDE"でも"WAVE"でもなく
"ALLROUND"なデザイン志向

■下記3要素を充たす必要があるため、ウインドの板のようにショートワイドになるとか、そういった大きな変化はないだろう。
①立ちっぱなしで操作できる浮力と安定性。
②直進安定・スピード持続性。
③ターン性能。
アウトラインとボトムにストレートが多いのは、②のためだ。スタボー、ポート交互に数回ずつパドリングするのだが、アウトラインやキールラインが丸いと蛇行してしまう。
走り出しが軽くても、すぐにスピードを失ってしまう板もだめだ。走り出しは多少重くても、ぐいぐいぐいと漕ぐパドリングリズムに呼応してずんずんずんと進み、慣性を保つ板でないといけない。だから比重(体積・重量比)は、ある程度高めのほうがよい。
ウインドの板のように、スラローム、ウェイブ、フリーライドと分化はせず、相反する、①②と③の両立レベルを高めつつ、1枚の板のレンジを増やす方向で進化中。とはいえ、張った波のなかで動きたければ、ウェイブ系の板が必要だが。


first best buy
どんな板を選ぶべきか?

■もちろんメーカーによって異なるが、ラインナップはおおむね9'3"~12"、短いほうからウェイブ→オールラウンド→クルージング系となる。
あなたが標準的体格の男性なら、理想をいえば11'で練習し、パドリングがしっかりしたら、




10'6"を買うといい。この1枚で、湖、川下り、フラット海面、日本のたるい波、ぜんぶカバーできる。
上達して、波のなかでもっと動きたくなったら、短いのを買い足せば万全。
スタンダップのいいところは、エキスパートでも、この2枚で充分まかなえること。


carbon or
aluminium?
カーボンパドルとアルミパドルの違い

■重要な、パドリングの技術的ハウトゥ。
庭の落ち葉を掃くように、メリハリなく後方に漕いでも、推進力はあまり発生しない。自分より前にパドルを入れ、リズミカルに引く、引き切った時点で、ロワーハンドは腰、アッパーハンドは額、ここから、腰のロワーハンドを支点にして、アッパーハンドを前に突き出すのだ。バイクのペダリングで、ただ踏むだけではなく、引き足を使うのと同じ。
繰り返すことでリズムが生まれ、パドルシャフトがしなり、返り、イルカが尾びれを使うような、効率的で強い推進力が発生する。しかし、このパドリング、アルミシャフトではできない。しならないのだ、カーボンシャフトでないと。
しかし後者は高い。
一例をいうと、カーボンシャフトの某パドルは¥68,000、460g
アルミの某は¥20,000、1300g ビギナーこそカーボンにすべきともいえ、投資価値はある。