………………艇庫つきモンスターモーターホームでゆく、NORTH WEST SUP SAFARI ………………

OREGON, WASHINGTON, CANADA
艇庫つきモンスターモーターホームでゆく

NORTH WEST
SUPPIN' SAFARI

photography= ©Naish/ S.Whitesell
report= David Kalama
screenplay= words-by-toko.com



ロビーさん、買っちゃったよ、
モーターホーム。巨大艇庫つき、
40フィート。いくらよ?
日本の市バスが35フィートだよ、
エコ性能はどうなの(笑)
ウインドトリップなら目的地は限られる。
SUP なら白紙。
ロビー、カラマ、ミッキーのハードコア
おじさん3人衆は、北米大陸ノースウエスト
コーストに旅だった。開拓のために。
DAY: 01
■オレゴン州のポートランド空港にランディングしたのが夜の11時過ぎ。レンタカーを借り、マウイから積み込んだSUPのボード群をまたもルーフに積み上げる。
腹ぺこで、ジャックインザボックスでジャンクを詰め込み、コロンビア川沿いに北米大陸の奥へと90分ドライブ、ワシントン州ホワイトサーモンのナッシュ事務所に到着。
(このあたりは、コロンビアゴージと呼ばれ、夏季、その安定した強風によって、ウインドサーフィンのメッカになっている)

事務所のパーキングに鎮座し、威風あたりをはらっているのが、今回の旅の足となり宿となる40フィートのモーターホーム。
キッチン、リビングはもとより、バスルーム、
SUP艇庫(!)まで装備している。テレビも4台搭載しているので、いいオトナがチャンネル争いして険悪な空気に旅を沈ませることもない。
こと4輪については派手好きなロビーが、──公道を走れるようにデチューンしたカテゴリー Cカーとか、8エーカーの自邸敷地整備のためのマイブルドーザーとか──プロモーション、っていうか今回のようなお楽しみのため、入れ込んで新調したものだ。
なんてゴージャスな SUPトリップ、とわくわくしたものの、たとえばバスルームが機能せず、歯磨きにしか使えないといった問題も発生することになるのだが、それもアミューズメント。
さあ、旅が始まる。
DAY: 02
■寝相が悪く、壁を蹴ったつま先の痛みで目が覚めたが、しばらくどこにいるか分からなかった。
そうかモーターホームか……車内に立派なバスルームがあるのに外に用をたしに出る。
風に吹かれ、一気に覚醒した。ウインドサーファーである僕は20年前ここで、この風に吹かれていたのだ。
コロンビアリバーゴージは、その名の通りコロンビア河の侵食による峡谷になっていて、内陸の砂漠と太平洋北西岸寒流の温度差による風が、峡谷のベンチュリー効果で圧縮される。
この土地には "Strong wind" という形容はない。それが日常だからだ。飛びきりの暴風の日、ローカルたちはこう叫ぶ。
"nuclear !" (核のような爆風だぜ!)
強風だけではなく、風と、その反対方向の河の流れによってうねりが高くなり、ブレイクし、それがマストハイに達することもある。
マジカルミステリーツアーの皮切りは、爆風を背に受けうねりを攻めるというハードコアセッション。
それでなくても脂の乗りきったチームナッシュの熟年ワタメンどもは、蜂蜜とバターがごってり盛られたでかいパンケーキ、ビスケットにグレイビー(肉汁)ソースの朝食でさらにギトギト、コロンビア河を汚染しかねない。

ウインドでいう"Bump and Jump" のベストポイント、フィッシュハッチェリーに。風は核爆発ほどではなく、うねりは4フィート。
12”のグライドを選んで河に出る。
テイクオフは簡単ではなかった。強い向かい風と、大河の、トルクのある流れに逆らってパドルし、うねりにテイクオフしなければならない。これはそーとーきびしい。が、ハードなパドリングの甲斐はある。異感覚なのだ。なんて言ったっけ、斜面上に、ボトムからピークへと水を逆流させ、波をシミュレートするプールのように、一度乗ってしまえば、逆流と向かい風によってえんえんとライディンングできるようなフィーリング。
ロビーもミッキーもセッションに加わり、この夜は、その初体験のライディング感覚と、20年前、ゴージのワールドカップで戦った思い出話で盛り上がった。

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NORTH WEST
SUPPIN' SAFARI

最初の調査は、セイシュンの日々がよみがえる
コロンビアゴージ。この強風とスゥエルを、
スタンダップでどう楽しむか
DAY: 03
■昨日のハードコアセッションに疲れたか、皆な朝9時まで寝坊。オートミールの草食系朝食。
本日はメローに、フッドリバー(コロンビア河支流)上流に、絵になるポイント探索に向かう。
フッドリバーは太平洋から鮭が遡上し、流域の森が豊かで、熊もしばしば見られる。国道から少し入った渓流に、ビーバーがつくったダムがあるかも、と思わせる。
ところが3時間ドライブしてもここというポイントが見つからず、古いガススタンドでスナック菓子を買い食い、ひとやすみ。
その後、フッドリバーに合流するであろう支流に架かるいい感じの古い石橋を見つけ、そこから板を落とし、僕らも飛び込む。
川の流れはゆったりで、漕がずにいて歩くくらいのスピード。やがて両岸切り立った岩の崖になる。この景色を、水面から見られるのは、鮭とスタンダッパーだけであろう。
その先の川沿いにトレイルがあり、上陸してモーターホームに戻るのに5分しかかからなかったことに驚く。その川下りは確かに、ひとつのくっきりとした"Trip" であった。
DAY: 04
■昨夜の宿はウォルマート駐車場。各人、この旅に必要なガジェット──ひとり眠れない夜の読書用ヘッドランプとか──を買いに走る。
本日はトリップ初の海。カナダに接するウエストコースト最北・ワシントン州のあるポイント。
僕がナビゲートするから、と助手席についたはいいけれど、うたたねしてしまい、でも起きるとそこはポイントだった。
ローカルたちは親切で、犬たちとバーベキューしているご家族と知り合い、スナップを撮る。
波はオーバーヘッドでスティディ。ロビーもミッキーも子供のようにはしゃいでいる。問題は水温だが、マウイより20度ばかり低い程度なので大したことはあるまい。
ロビーが9'3"、ミッキーが9"6"を選んだので、僕には11'4"しか残ってなく、波を選ぶ必要があった。ともあれそのセッションは最高だった。
波はもちろん、海から眺める、流木に覆われたビーチと、その向こうの大陸がなぜか寂しく愛おしかった。

DAY: 05
■フェリーでカナダに渡り、40フィートのボディを持てあますビクトリアの都市部を越えてバンクーバーアイランドへ。

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NORTH WEST
SUPPIN' SAFARI

スタンダップだから、ダブルの波でリップも
できりゃ、森の熊さんと接近遭遇できもして



DAY: 06
■パンツの中にアリが入り、股間が痒くて目が覚める。
コックスベイに出て、何時間も、のんびりゆっくり漕ぎ、波に乗った。
ロビーは頭が良く、慎重で、SUP にもすぐには関わらず、観察していた。カイトもそうだったが、確信するや一気に動く。
彼を見ていると、本気でハマって、日々確信を深めていることが分かる。
ミッキーは、子供が1枚のクッキーを瓶から取り出し、ゆっくり、大切に味わうように波に乗る。
海から上がり、ランチに入った街のレストランで
地元の英雄的なサーファー、 Ralph Bruhwiler に会う。彼はカナダのサーフマガジンを見せ、カナダの波について話してくれる。強烈に巻いた、真っ白いピークでの、狂気の域に達したエアリアルの写真にやられる。

湾内に百ほどの島があり、手つかずの自然が残っている "Tofino" に。
クイックシルバーのラルフとスティーヴが合流
し、ここの、本当の「先住民」に会いにゆこうとボートを出してくれる。
ほら、と指さす方向を見ると樹の上に2羽のハクトウワシ。ここから始まる野生の王国の、門番であるがごとく胸を張って下界を睥睨している。
「熊もいると思うよ」
熊?

ちょうど小潮(潮がもっとも引く)で、熊たちは
露出した磯や潟にシーフードを漁りに、森から降
りてくるという。
ほんとにいた、熊だ。
SUP で近づき撮影することに。トリップ記事の
「絵」的にはおいしいし、そうすべきだが、大丈
夫か? 熊って泳ぐよね? なんじゃワレと飛び
込んできたら、熊より速く漕げんのかおれ?
追いつかれたら謝罪しても許してくんないだろう
から、パドルでシバくしかない、シバけたとして
も動物愛護団体にめっかったらヤバいよ、そのう
えネットで炎上したらNaish もヤバいよ (半泣)

ロビーとふたりでゆっくり近づいてゆく。
30フィート、熊は僕らに関心を示さない。
20フィート、彼は顔を上げ、僕らを1秒ほど見、
敵意がないと分かったのか、餌漁りに戻った。
10フィートまで近づくと、彼の鼻息が聞こえ
た。帰りにも別の熊がいて、同様に撮影した。
かなり素敵な体験だった。
静かで穏やかな SUP だからこそ可能だった。
この SUPトリップは、アドレナリン系、エンド
ルフィン系双方の初体験に満ちていた。
ダブルの波でリップすることも、野生の王国を遊
覧することもできる SUP だからこそ。

明日は、荷造りして、デニーズかタコベルで腹ご
しらえして、マウイに帰るだけだ。