吹いているから──ウインドではなく── SUPで出る。立ってらんないくらい吹いたら、 あきらめてウインドしますが (笑) ■TOMOです。 ウインドサーフィンのプロになりたくて、18歳のときマウイに渡り9ヶ月滞在、19のとき御前崎に移住しました。97年ですね。 2000年にカイトを始め、(カイトの)フリースタイルをさんざんやりました。 2006年、石垣島に住んでいたのですが、サーフィン雑誌に、尊敬するレアード・ハミルトンがSUPしている写真が載っていて、 なんじゃこりゃぁぁっ!(笑) 当時は市販のSUPボード、パドルは無かったので、10フィートの普通のロングボードを購入。 問題はパドルで、材木屋で長い板(1000円だった)を手に入れ、自作したんです。 パドルというより木製の巨大なスプーン(笑)それでコギまくり、波にも乗りました。 ノーマルロングボードのため浮力がなく、コギ続けないと沈んでしまうし、アップレイルのため左右にも安定しません。でもいま思えば、だからこそ、バランス力、コギ力が鍛えられたのだと思います。 ええ、現在はSUPメインに活動してます。 なぜSUPかって? ……まあ、単純に楽しいからですね。ウインドサーフィンやカイトって道具だてがやや複雑だけどSUPはシンプルでしょ、自分がエンジンで、シンプルで、ダイレクトで、そういうところが好きなんですかね……。 |
HW■ウインドサーフィンもカイトもSUPも、海象とシンクロするスポーツですよね。 レギュラーサーフィンもそう。レギュラーサーフィンの場合、両腕によるパドリングだけで波とシンクロし、その波に乗るためには、その波に巻かれないためには、その波に乗り続けるしかない。ボトムで失速するとプルアウトできず巻かれてしまう。 シンプルでピュアで、それがレギュラーサーフィンの魅力であり、欠点でもありますよね。 ウインドにはセイルパワーという強力な駆動力があって、それは武器なんだけれども、波とシンクロせずに波を横断したり、ボトムの前でカーヴィングしてるのにボトムターンしている(波に乗っている)と勘違いしたり(笑)、それがレギュラーサーフィンの逆説的な意味で欠点と言えますよね。 TOMOプロがSUPがいちばん楽しいというのは、海や波とシンクロするフォーマットとして、SUPが最適で楽しいと……? ■どの手段がいちばん楽しいかというのは海のコンディションによるのですが、吹いているから──ウインドではなく──SUPで出るということもありますし(後述) 質問の意味で言えば、レギュラーサーフィンはカラダと板だけとシンプルで、ある意味ストイックですよね。 ウインドのセイルは、ゲティングアウト、 |
テイクオフのときは頼りになるけど、波に乗ったら邪魔に感じたり(笑) SUPのパドルは、セイルのようにジャンプさせたり時速90kmで走らせてはくれないけれど、動きを助け、拡張してくれるんですよね。 波が張ってなくて、まだうねりでもテイクオフできたり、波乗りの時、ブレードでフェイスを撫でて体勢を安定させたり、ボトムターンやカットバックの時、パドリングして加速したり、ターン弧を伸ばしたり切れ上がったり、トップターンでリカバリーしたり…… まあ、板が大きいので、そうしないと動かないということでもあるんですが、パドルは、この連載でも書かれてましたが、スキーのストックのように、綱渡りのバランサーのように使えます。 セイルパワーはエンジンですよね。 SUPではライダーがエンジンですが、パドルはそのエンジンの能力を効率よく海に伝え、拡張してくれるもの。雪山でスキーやスノーボードを穿くと自由になるのと似てます。 腕の、自分の延長。 パドルをうまく使うことで、大きく、厚いボードを、ロングボード、もしくはショートボードのようにラディカルに動かせるんです。 テイクオフして、手にパドルがないと、すごく心細いと思う(笑) |
ダウンウインドで、風を背に受けながら うねりをうまく乗り継げたら、えんえん プレーニングしてるみたいですよ。 セイルないのに HW■ウインドサーフィンの場合、それこそダブルフォワードとかゴイターとか、いろいろワザがあり、ひとつひとつメイクしてゆくことが目標にもなる。 SUPの波乗りでもチューブライディングとかノーズライドとかあるけれど、ジャンプやエアリアルはできないし、トリックの種類は少ない。 最近TOMOプロが熱心にやってるダウンウインドやロングディスタンスに至っては、持久系でひたすらえんえんパドリングするだけですよね? ウインドサーフィンやカイトを本格的にやってきたTOMOプロとしては、その点もの足りなくない? っていうか(SUPを)それら以上に面白く感じているというのは具体的にどういう? ■それよく聞かれるんですよ、ロングディスタンス(のトレーニング)って面白いかって。 御前崎にもSUPしてる人はたくさんいるけど、みんなウェイブ、もしくは釣りで、アウトサイドでロングディスタンスしてるのは僕と永松(良章)さんくらいで。 (僕、)トリックも好きなんですよ。カイトにもフリースタイルがあって、30秒だってジャンプできるからウインドよりバリエーションがあって、ウェークボードからきたハンドルパス系トリック等々、やり尽くし感があるほどやりましたよ。 でもSUPでえんえん漕ぐほうがいまは面白い。 なぜかって? ……やっぱりさっきいったフィジカルな実感かなあ、マラソンや、バイクで長距離えんえんと走ることにはまっている人もたくさんいるわけだし。 それに、SUPは道具がシンプルだけど、コギは奥が深いんですよ。 まったくの無風で、完全なフラット海面があるとすればそれも気持ちいいだろうけど、海ではなかなかありえない。風があってもいい、ダウンウインドならむしろ強めの方が面白いですから。 自転車乗る人なら分かるでしょうけど、追い風ってすごいでしょ、自転車が原付なみの駆動力で走りますよね。 ダウンウインドで、風を背に受けながらうねりをうまく乗り継げたら、えんえんプレーニングしてるみたいですよ、セイルないのに。 スピードもけっこう出るんですよ、最近GPSつけて、ロングビーチ、シャーク間往復(片道約5km)や、遠州灘のポイントでダウンウインドするんですけど、(ダウンウインドで)うねりに乗ったら、12フィートのボードでも26km/hとか出ますからね、17フィートなら30km/h越えるんじゃないですかね。 ボードに立ってられないくらいどん吹いたらさすがにウインドしますけど、15~20m弱の西風だったらSUPでダウンウィンドしますよ、10m前後なら行きはアップウインド、帰りはダウンウインドでチャーコギ──石垣島の方言でいう鬼コギのことなんですけど──これならアップ、ダウン両方練習できますしね。 パドルとラダーを操作し、風、波に乗る感覚は、エンジンつきの乗り物……、というより17フィートの生きものをコントロールするよう |
HW■夏のマウイ遠征用に、カーボン巻きの、17フィートのカスタムボードを作ったそうですが、17フィート(510cm)なんて風があったら運ぶの大変でしょ、 ■それが軽いんですよ、持ったらびっくりしますよ、ビーチで運ぶときも、風があっても、ウマく風を利用して浮かせればぜんぜん苦になりません。ただ、車に載せる時など気をつけないと、軽い分いとも簡単に風でぶっ飛びますけどね。 MAUI DOWN WIND (15km)、MOLOLAI 2 OAHU (52km)、今年はMAUI to MOLOKAI(30km)もあるんですが、ロングディスタンスレースのアンリミテッドクラスでは、ボード全長17フィート前後もしくはそれ以上が標準です。 14フィートクラスもあります。あえてノーラダー(後述)の短いボードでの挑戦的クラスですが、非常にタフなため選手数は少ないです。 ボードが長いのは、直進安定性、慣性を保って失速を抑えるためです。 17フィートクラスになると、ラダーといって、足先を左右に動かすことでフィンの仰角を変える装置がつきます。板が長いので、パドリングで向きを変えるのは大変だからです。各社工夫していますが、このラダーシステム、なかなかよくできていて、前足で軽く操作でき、指を離すと中立復帰しますし、ラフに急操作すると飛ばされそうになるほど利きます。 うねりを利用する海面では、パラレルスタンス(両足を揃える)ではなく、原則サイドウェイスタンスするので、デッキ上のコントローラーは、レギュラー、グーフィースタンスそれぞれにオフセットできます。 このラダーシステム、レースでは板の向きを変えるというより、むしろ風波に乗り続け、直進を維持するために使うことが多いのです。 ダウンウインド・ロングディスタンスレースでは原則ダウンウインドレグとなりますが、もちろんずっとストレートダウンウインドで走れるわけではありません。 ほぼストレートダウンで走れるレースもありますが、たとえばモロカイオアフはかなり上る必要があります。 アップウインド、アビーム、クォーター、走る角度は、その局面、状況によって変わります。 たとえばスタボーの強い横風を受けているとき、ポート側をコギ続けないと、板はベアしてしまいます。片タックをコギ続ける、これはすごくつらい。ラダーシステムがあれば、板がスタボー側に上るように「当て舵」する、と、ポート、スタボー交互に漕げ、かつ直進を維持できるんです。 また、風とうねりが同方向に進むとは限らないから、追い風にもらう艇速、うねりに乗ることでもらう艇速が最大化するようパドリングし「操舵」するわけです。 SUPはシンプルといいましたが、この操作をして風、波に乗る感覚は、エンジンつきの乗り物……、というより17フィートの生きものをコントロールするような面白さがあります。 カラダが、だめだだめだもうコゲないと訴える、だめだだめだコガなきゃだめだと意識が励ます。その葛藤に疲れて意識が遠のく、と、応援してくれた家族、友人やスポンサーの顔が脳裏にうかんでくるんです。 ここでリタイアしたら日本に帰れないよなあ……気づくとカラダが少し苦痛を忘れていて、その隙をついてコギ始めるんです (苦笑) |
HW■この連載、前々回で、TOMOプロが日本人として初めてSUPで参戦した(SUPクラス以外、レイダウンパドル、カヌーなどでは多くの日本人が参戦している)MOLOKAI 2 OAHUをレポートしてもらいましたが、あれって大げさじゃなく命がけでしょう?伴走船がつくといえ、見失われるケースも多く、他の選手も見えなくなって太平洋ひとりぼっち、海峡は50km、少しガスったりすれば島も見えなくなるだろうし……。 ■M2Oにはいろんなクラスがあって、SUPのアンリミティッドクラス(14フィート以上のラダー付きボード)はソロのみ、14フィート以下クラス(ラダー無し)はソロに加えて、チーム2、チーム3(二人もしくは3人で交替しつつ)、があり、僕は船上待機で船酔いするのがイヤだったこともあり、ソロにエントリーしたんですが、周囲が心配するんですよ。 「えっ!?、M2O初出場でいきなりソロクラス?」 と何度も何度も誰にも彼にも心配され、エントリーにあたって、鮫もいるし遭難のリスクもあるのでオウンリスクで……みたいな念書にサインして初めて心配になってきて(笑) スタートのモロカイ島西端カルアコイからゴールのオアフは32マイル先。オアフはもちろん見えないし、どの方向かも分からない。 初挑戦で何も分からないので、とにかく他の選手についてゆくしかない。基本トレードウインドで下るレグなんですけど、そのまま下ったらオアフに着けないから、まずは10mオーバーの 強風を突いて、30分ほど、少なくとも3kmほど上ることになりました。そこからは潮目を読むなど各選手それぞれのタクティクスがあって、上り続けたり、クォータリーに入ったりでばらけてくんです。 Team STARBOARDの同僚、若手の強豪、コナー・バクスターに必死についてくんだけど、じりじりと離される。気づくとまわりに誰も見えない。文字通り太平洋ひとりぼっち (笑) 自分が何位なのかも、オアフまであとどれくらいなのかもわからない。 トレードウインドの向きは変わらないんだけど、場所によって強弱はかなりあるし、潮流もあるから海面は変化します。 きざぎざなチョップ、三角波、大きなうねりはオーバーヘッドはあって、底にいると水の壁と空しか見えなくなります。海ぜんたいが大きく動いてるんです。 スタート後2時間はカラダも軽くて、ランナーズハイみたいな感じもあって、なんだ意外にラクだなと。でも15マイル過ぎ、残り半分からがつらかった。 カラダが、だめだだめだもうコゲないと訴える、だめだだめだコガなきゃダメだと意識が励ます。その葛藤に疲れて意識が遠のく、と、応援してくれた家族、友人やスポンサーの顔が脳裏にうかんでくるんです。 ここでリタイアしたら日本に帰れないよなあ……気づくとカラダが少し苦痛を忘れていて、その隙をついてコギ始めるんです (苦笑) しばらくはコゲるのだけれど、もう限界だと、じっさいカラダも動かなくなる。もう限界、それが周期的にやってくる。またコギ始める……。 そういう、苦しいレースのどこに快感があるのかって? ……やっぱりゴールしたときの達成感ですかねえ。ヒザはがくがく、手もわなわな震えてるんですけど。 |
MOLOKAI 2 OAHU PADDLEBOARD WORLD CHAMPIONSHIP ■モロカイ島西端カルアコイからスタート、オアフ島マウナルアベイビーチパークまでの32マイル、約52kmを、人力(レイダウンパドル、SUP)で横断する、ロングディスタンス・タイムレース。世界一タフなパドルレースと呼ばれ、レイダウンパドル8年連続チャンピオンのジェイミー・ミッチェルをはじめ、SUPクラスには、デイブ・カラマ、ジェリーロペス、バジー・カーボックス、コナー・バクスターら、World Top Watermanが勢揃いする |
MAUI DOWN WIND ■例年7月にマウイで開催される "Naish Maui International Paddle Board Championships" (写真)をはじめとする、マウイで行われるダウンウインドレースの俗称。 マリコベイからカフルイハーバーまでの9.54mile(15km強)を、トレードウインドを背に下るタイムレース。レイダウンパドルとSUPクラスがあり、ハレアカラを望みつつ、ホキーパやカナハのアウトサイドを下る、地球一ゴージャスなツーリングでもある |