………………太平洋ひとりぼっち……千のうねり…… 4.0㎡級のアゲンスト……ふたつの海峡横断レース………………

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Maui to Molokai
M2M 27mile
Molokai to Oahu
M2O 32mile

2011 SUMMER
ふたつの海峡横断レース
17ft RACE BOARD
太平洋ひとりぼっち……千のうねり……
4.0㎡級のアゲンスト……
finising time=
5h01m03s
M2O
世界歴代8位記録達成
そして、次の365日が始まる

performed & reported by TOMO
■78年広島生まれ。プロカイトボーダー、プロSUPライダー。
日本人として唯一、モロカイ2オアフなど国際大会に精力的に
参戦、好成績を残す。http://www.etikomot.com

photography by Darrell Wong
screenplay by words-by-toko.com

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昨年、初参戦したM2O、
世界一過酷な海峡横断パドルレースだ。
この1年、この、M2O 2011で、TOP
10入りすべく、トレーニングしてきた。

■前号既報、5月のオアフ遠征に続き、7月12日、マウイに渡った。トレーニングと、約3週間で3回開催されるレース参戦が目的だ。
1) Maui to Molokai 27mile (約43km)
2) Maui international paddle race 9.54mile(約15km)
3) Molokai to Oahu 32mile (約52km)
毎週末がレースになる。前者2レースは、Molokai to Oahu (M2O) のトレーニングのつもりだ。疲れがたまって逆効果ではないか?、など不安はあったが、レース感を養いたかった。
前者2レースの距離を考えても、しっかり休みを入れれば調整にもちょうど良さそうだ。

世界一過酷な海峡横断パドルレース、M2O。この1年やってきたことが試される。去年初めて参戦し、世界の現実と自分の実力を知り、今年、トップ10入りすべくトレーニングしてきた。
調整のため、M2M参戦。伴走艇なし。
ミス、トラブルは遭難に直結。
その緊張感、孤独はしかし、
悪いものではなかった。

マウイ入り後、中3日で、Maui to Molokai(M2M)参戦。
ストレートダウンウインド、高速カレント、大きな風波。M2Oよりもラクで楽しいと評判のレースだ。M2Oは敬遠するが、M2Mは毎年楽しみにしているというパドラーは多い。
エリートクラス(プロクラス)は、エスコートボート(伴走船)が義務づけられていない。
"OWN RISK" でってことだ。
M2Oは伴走船必須だから、それだけでも、このレースがM2Oよりソフトコア、ということ……なのか?
金のないことにかけてはそう負けない僕は迷わずボートレス・エントリー(ちなみにエスコートボートの相場はマウイモロカイでは500ドル~800ドル)。
不安はある。
トラブル(ボード離脱、ラダーの故障、パドル折損など)はもちろんだが、1番の心配は水分補給だ。ボートがないので手持ち分に限られる。スタートはマウイ北西端ホノルア・ベイ。冬になれば世界屈指のチュービーな波が割れるが、北のウネリが入らない夏は旅行者に人気のシュノーケルスポットだ。
コナー・バクスター、デイブ・カラマ、リビオ・マネレア、ゼーン・シュワイツァー、バート・デ・ズウォルト、スコット・トゥルードン……役者は揃っている。彼らとスタートラインで肩を並べても緊張は不思議とあまりない。ここ数年何度も経験してきた。
絶好のスタートを切り、トップ集団に食らいつく、がトップ3は、風が入り始めた途端にスピードを増し、離れていく。





穏やかだったホノルアベイを離れしばらくすると海面が荒れてきた。聞いた通りのストレートダウンウインド、次から次へグライドし、思わず声が出る。
このPailolo channelは、マウイ、モロカイ、ラナイの3つの島に挟まれた海峡で、海流は強く、速い。
この日は、サウススウェルも入って風波が大きくなり、強風、と過去5年間で最高のコンディションだったらしい。
ふと我にかえると、頭オーバーのウネリ、15m超のブローのなか、太平洋ひとりぼっち。
「もしここでボードが離れてしまったら? ……ラダーがトラブったら? ……パドルが折れたら?」
「死んじゃう?!」とバッドトリップ。
一応、レースオフィシャルの巡視艇がいて、選手を見守ってはいるが、この大海原、選手全員に眼は行き届かないはず。
実際はるか遠くに巡視艇を見かけたが、向こうから見えてんのかな?
電車のホームで「黄色い線の後へ」とうるさくアナウンスする日本じゃありえない。自分で自分を守れないやつはボートを雇えってことだ。
不安は拭えないが、その突き放された孤独感は悪いものではなかった。
終盤に差し掛かると風がどんどん強くなり、波もデカくなった。17ftのボードで頭オーバーの波に乗る。板は走るが足腰にはこたえるグライドを続けたせいで限界に近いが、テイルの1番後ろまで下がり、前方長く伸びている残りの16ftを抑えねばならない。
この長さでパーリングしらどうなるのか?、怖くなって想像するのを止めた。

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ゴール、カウナカカイハーバーが見えてきた。
残り約1kmで、僕にはクロスのアゲンストになる、サイドオフの凄まじい強風が襲ってくる。コギとグライドですり減った身にこたえる胸突き八丁、ゴール寸前のここでリタイアする選手もいる。
完走、タイムは3時間49分30秒。
総合12位、SUPエリートクラス9位。
優勝はコナー・バクスター、2位はデイブ・カラマ、3位リビオ・マネレア。
心配していた水分補給も、手持ちのハイドレーションパック×2+ボトル1本で問題なかった。

M2O本番前3日は完全休養、
海に出たがる自分をなだめつつ

■M2Mの翌週末はMaui international paddle race、9.54mile(約15km)のストレートダウンウインド。「短距離走」で、今年はトレードウインドが弱かったこともあり、フルにコギ続けねばならず、海峡横断とは違った厳しさもある。
1時間15分34秒。SUP総合10位。SUPアンリミテッド8位。年代別(30-45歳)5位

■そしてM2O。レースまでの残り3日間を全て休養にあてることにした。
1年間、これを目標にやってきた。練習したい気持ちを抑え、体調を万全に導く。レース前日、夕方のフェリーでモロカイ島へ。予想以上に時間がかかり、21時ごろ宿に入る。レーススタート会場、カルアコイビーチが目の前のコンドミニアムだ。他の選手達はすでに寝ている様子。
軽めにパスタを食べて、伴走してくれるヒデさんとミーティングし、ベッドへ。

7月31日、レース当日、朝4時半起床。
レーススタートは7時半。朝ごはんを食べ、ストレッチをして、明るくなってきた6時半ごろビーチへ。
すごい数のエスコートボートの中、自分のボートをなんとか見つけ、ボート積載の17フィートをゲットし、ビーチに戻る。体調は良い。緊張感はあるが、いい種類のそれだ。
スタートはボードに座って待たねばならない。
号砲! 全員一斉に立ち上がりいきなりチャーコギ(鬼コギ)。
スタートして30分は横風を受けながらのコギ合戦。トップ集団に食らいつき、ボート群の引き波に耐えながら進む。
150以上のエスコートボートが、選手たちがばらけるにつれ、それぞれの選手を探しながら近づいてくるので、引き波がすごい。スピードが落ちるどころか、油断すると沈してしまう。その引き波を受けたくないなら、1番前を行くしかない。
30分を過ぎたあたりから、レグはやや下る、その途端、トップ3の選手はターボチャージしたように加速、離れていった。
波に乗せる技術の差か?
波に乗せるときは一気にボードを下らせ、そして上る。それを繰り返す。ただ下り続けるだけではゴールにはたどり着けない。
それがこのM2Oの難しさでもある。
レース中盤、第2集団のなかにいる。
「トップ10にいるぞ!」
と、エスコートボートのヒデさん。
今年の目標、最低でもトップ10。四肢にパワーがチャージされたようだ。
ふと気づく。M2Mで孤独を経験したからなのか、エスコートボートの存在がすごく心強く、コギにも明らかに好影響を与えている。
ハイドレーションバックのドリンクが無くなり、ボートに近寄り、バックを投げてもらう。
栄養補給のジェルやグミは、ヒデさんが海に飛び込み、手渡ししてくれた。

「トップ10にいるぞ!」
と、エスコートボートのヒデさん。
四肢にどっと血が巡ったのが、わかった

レース終盤。去年と大きく違ったのは、先頭集団にいたからだろう、常に周りに他の選手がいた。中盤からは、スターボードニュージーランドのジェレミー・ステファンソンと、追いつきそうになっては離されを繰り返し、それは終盤まで続いた。
ココヘッドが大きくなってきた。昨年の記憶があるからか、もうココヘッドかという印象。タイマーで確認すると4時間半。昨年よりあきらかに速い。昨年に比べ、少し風も弱く、波も小さく感じた。
ということは、ゴール寸前、ハワイカイの山稜から吹き下ろす、オフのストロングガストも大したことないかも、と、ココヘッドを周りハワイカイ湾に入ったが、甘かった。
ここは常に風が強い。かつこの拷問的なオフショアあってこそのM2Oなのだろう。
気力を奮い立たせても、「マジかよ?」と嘆息してしまう。
5時間近く漕いできた。足腰はよれよれで、岩場のバックウォッシュで落ちそうになる。風が海面を白く削っている。ウインドサーフィンなら4.5、 4.0かも知れない。
ボードに立っているのが辛い、漕ぐのをやめれば途端に17ftのノーズが風を受け、なぎ倒されて横になり、二度とノーズをゴールに向けられないだろう。風をなるべく受けないよう低姿勢になってひたすらコグ、半泣きで。脚、攣るなと念じながら。
ココヘッドの岩場から、ボートのデッキから声援が届く、がんばれ!、もうすこしだ!
コギを止めれば終わる、コギ続ければ、いつか辿り着く……。30分後、残り5kmをコギ切る。
"From Japan, Tomoyasu Murabayashi"
アナウンスに顔を上げると公式時計が5時間01分を指していた。昨年より54分早い。
順位はわからないが、周りのみんなが "Great job, Tomo!" と声をかけてくれる。
「日本人ですか? すごい!」
ギャラリーの日本の方からも。

優勝は、今季絶好調の17歳、コナー・バクスター。4時間26分。
2位は、オアフのトップパドラー、スコット・ガンブレ。3位、マウイのリビオ。4位がデイブ・カラマ。5位、ずっと背中にかじりついていたジェレミー・ステファンソン。6位 ヨーロッパのトップパドラー、エリック・テレセン。
そして7位が、僕だった。(SUPアンリミテッドクラス32人中)
目標のトップ10入り達成、年代別1位のおまけもついた。
正式タイムは5時間01分03秒。
もう少し自分をシゴいていれば4時間台だったと思うと悔しいが、その楽しみは次回にとっておこう。
トップとは30分強の差があるが、僕のタイムも歴代トップ10に記録されることになった。
さあ、次の365日が始まる。